梅雨明けが発表され、本格的な夏を迎えようとしていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
選手たちはもちろん、ご観戦なさる保護者の皆様も熱中症には十分にお気をつけください。
さて、最近レッスンの中で、ピッチングやバッティングのフォームについての様々なご質問をいただいております。
それらに回答をする中で、私自身の「フォーム」に対する根本的な考え方を皆様にもお伝えできたら良いと思い、このように文章にて共有しようと思います。
野球選手にとって一番知りたいと思っていることは何かと言うと、「理想のフォーム」についてです。
「理想のフォーム」とは何でしょうか?
この話を進める前に、真っ先に考えなければならないことは、何が理想か?ということです。
ピッチングフォームに関して言えば、球速・ボールスピードが一番早くなることが理想であるならば、球速・ボールスピードを一番出すことが出来るフォームが理想のフォームということになります。
また、制球・コントロールが一番良くなることが理想であるならば、制球・コントロールを一番良くすることが出来るフォームが理想のフォームということになります。
しかし、野球選手たちはこの球速・ボールスピードと制球・コントロールのどちらも良くしたいと思っています。
ということは、「理想のフォーム」とは球速・ボールスピードと制球・コントロールのどちらも一番良いフォームと言うことになります。
果たしてそのような「理想のフォーム」は存在するのでしょうか?
この球速・ボールスピードと制球・コントロールに関しては「速度精度相反性」と言われ、互いに相反するモノであることが分かっています。
つまり、どちらかを良くしようとすれば、どちらかは悪くなるということです。
理想のフォームは、夢のような世界の話であり、現実的には妥協点を探していくことになります。
メジャーリーガーたちは球速だけを求めれば160km/hを超える選手が山のように多いと言います。
しかし、実際メジャーの舞台で活躍する選手たちの平均球速は150km/h台後半です。
各々の選手たちの球速ポテンシャルは160km/hを優に超えますが、160km/hを投げてはコントロールが付きません。
そこで球速を少し抑え、コントロールがつくようにしていると言います。
理想はあくまでも理想であり、その理想に近づくために努力することは言うまでもありませんが、実際、現実問題としてはボールスピードを抑えてコントロールを良くする、あるいは多少コントロールは良くなくてもボールスピードを出すと言った自分の最善の方略を考え、その方略を実現するためのフォームを探る必要があるわけです。
バッティング・フォームに関しても同様に、スイング速度とボールコンタクト精度・ミート力は互いに相反するモノです。
確率を上げるためにはフルスイングよりも少しスイング速度を落とし、ボールコンタクト・ミートを少し重視する振りをしている選手たちがいるのも事実です。
他方、パフォーマンスの指標は二の次として、ケガのリスクが少ないピッチングフォームが理想だと主張する人もいることでしょう。
ケガのリスクが少ないに越したことはありませんが、全くケガをしないフォームは存在しません。
ケガのリスクが少ないからと言っても、運動量が増えればケガのリスクは高まります。
また、少しリスクが高いフォームだとしても、運動強度や頻度・量に注意し、運動前後のケアによってケガのリスクを下げることも十分にできるということは覚えておきたいところです。
結局のところ、何が言いたいのか?
理想は理想として、一つひとつ、何を優先として考え、何が自分にとって最善なのかを選択して、フォームの改善に取り組むことが大切だということです。
さて、私は岐阜・野球塾B.A.Gのレッスンで2つの目的を持って指導しています。
一つは①体力要素の向上です。
もう一つは②効率の良い動きを獲得し、今現在の体力要素の中で最大のパフォーマンスを発揮できるようにすることです。
ピッチングに関しては投球速度、バッティングに関してはスイング速度を指標として使い①の評価をするようにしています。
体力要素の向上を図れば、大抵、投球速度とスイング速度は伸びてきます。
また、本人の力感によるところがありますが、効率の良い動きを獲得し、今現在の体力要素の中で最大のパフォーマンスを発揮できるようになれば、全力でなくても投球速度とスイング速度を落とすことがなくなります。
そうすることによりコントロールとミートに意識の比率を増やすことができるようになり、理想に近づくことができます。
極論、野球というスポーツにおける「フォーム」は手段であって、それ自体が目的ではありません。
どのようなピッチング。フォームであっても相手を抑えればよく、どのようなバッティング・フォームであっても相手から点が取れれば良いのです。
しかし、その目的を達成する確率を上げるためには「フォーム」が大事になってきます。
ここに「フォーム」にこだわる意義があるわけです。
また、野球には単なるスポーツを超えた芸術的な側面もあり、見かけが良く「美しいフォーム」であることが求められることも事実です。
この「美」に関してはまた機会があれば述べたいと思います。
フォームに関して悩むことが多いと思いますが、自分が「理想のフォーム」だと考えるモノが何なのか今一度整理し、その理想に近づくためにはどのようにすれば良いのか、再考してみてはいかがでしょうか?