現代の野球界では、トレーニングの効率化が進む一方で、「走り込み不要論」が唱えられるようになりました。
インターネットやSNSなどの情報を得ている人たちは「走り込みは意味がない」と考えているかもしれません。
走り込みが不要であると唱える大きな理由の1つは「野球は瞬発力のスポーツであり、長距離を走る遅筋化はパフォーマンスを下げる」ということです。
それはその通りです。
しかし、「走り込み=長距離=不要」という理屈は端的です。
遅筋、すなわち持久系の筋は試合時間が長い野球において決して不要とは言い切れません。
現場の指導者や選手たちの中で「一切走らなくていい」と言い切れる人がどれほどいるでしょうか。
さて、今回は「走り込み」という野球のプログラムがどうあるべきかについて話したいと思います。
私が提唱したい「走り込み」は「ただ漫然と長く走る」ことではなく、野球の試合構造を分析して導き出された「戦略的なインターバル走」です。
皆さん、【野球の試合中の外野手の移動距離】を計算したことがありますか?
ランニングの必要性を説く際、最も見落とされがちなのが「試合における純粋な移動距離」です。
具体的に、外野手の動きをシミュレーションしてみましょう。
・ベンチと定位置の往復(*高校生以上のカテゴリーで考えます。)
外野手がベンチから定位置に着くまでの距離を約100mとします。
1試合9イニングあれば、守備に行く際と帰る際で9往復することになります。
これだけで100m × 2 × 9 = 1800mです。
さらに、ダブルヘッダーで試合が行われる場合には倍の3600mに達します。
・プレー中の走行距離
上述の距離に、打者走者としての全力疾走(一塁駆け抜け、長打での激走、得点圏からの本塁突入)や、守備での打球追及が加わります。
これらを合計すると、1日で優に4kmから5kmもの距離を走る計算になるのです。
「野球は動いている時間が短いから体力はいらない」というのは完全な誤解です。
試合の最後まで高い集中力と爆発的なスピードを維持するためには、少なくとも「4〜5kmを走りきれる基礎体力」がなければ、勝負どころで本来のパフォーマンスを発揮することは不可能です。
ここで重要になることは、この4〜5kmを「どう走るか」という問題です。
野球の試合で4kmを一定のペースでジョギングすることはありません。
野球の動きは常に「全力疾走」と「休止(セット間や攻守交代)」の繰り返し、つまり天然のインターバル運動です。
つまり野球選手たちに必要な「走り込み」は「LSD(Long Slow Distance ; 長くゆっくり距離を走る)」ではなく「インターバル」ということになります。
したがって、練習に取り入れるべき「走り込み」は、心拍数を上げた状態から短時間で回復させ、再び爆発させる能力を養う「総距離4〜5kmのインターバル走」です!
30m、50m、100mといった距離を、試合のシチュエーション(攻守交代の全力疾走など)を想定して何度も繰り返す。この「積み重ねの5km」こそが、野球選手に必要な本物のスタミナを作ります。
また、科学的な視点からも、ランニング(特に高強度のインターバル)は以下3つのメリット・恩恵をもたらします。
① 回復力の向上(リカバリー能力)
有酸素運動のベース能力が高い選手は、激しいプレーの後の心拍数の戻りが早くなります。
投手にとって、イニング間に心肺を整えて次のマウンドに上がるためにも、この「回復の速さ」が武器になります。
② 終盤のフォーム安定(スタミナ)
「足が止まる」という言葉がある通り、疲労は下半身から来ます。
終盤の勝負どころでのトンネル、あるいはバッティングで腰が浮いたりするのは、下半身の筋持久力の欠如が原因です。
4〜5kmの走行負荷に耐えうる足腰があれば、試合の最後まで自分のフォームをコントロールし続けることができます。
完投を目指す投手であればその必要性は火を見るよりも明らかです。
③ メンタルのタフネス
野球は「間」のスポーツであり、待ち時間が長い競技です。
身体的な余裕は、精神的な余裕に直結します。
息が切れて余裕がない状態では、正しい配球の読みや守備位置の判断はできません。
走り込みによって培われた「余裕」が、土壇場での冷静な判断を支えるのです。
以上3つのランニングのメリット・恩恵を知ることで「走り込み=根性論/精神論」なる古いイメージをアップデートしていきましょう。
これは指導者の方々も選手も同じです。
もし仮に「走り込み・インターバル走」を毛嫌いする選手がいればこのように伝えてみてください。
「ただ長く走るのが目的じゃない。1試合で走る5kmを、誰よりも速く、何度でも繰り返せる体を作るんだ。だから、このインターバル走が必要なんだ」と。
目的が明確になれば、選手たちの走る姿勢は変わると思います。
おわりに、走りすぎによるオーバーワークや怪我のリスクには注意が必要です。
シンスプリントや疲労骨折などは過度なランニングによってよく起こりえます。
しかし、リスクを恐れて「走ること」そのものを放棄してしまえば、各々が持っているポテンシャルを試合の最後まで発揮させることはできません。
野球選手にとってのランニングとは、単なるトレーニングではなく、「試合終了の瞬間まで、自分の最高のパフォーマンスを続けることができるための基礎体力・土台作り」です。
ぜひとも「インターバル走」に取り組んでみてください!
<追伸>
5kmという計算は高校生のダブルヘッダーを想定していますので、中学生であれば2~3km、小学生高学年であれば1,5kmほどはインターバル走としてこなせる体力はつけていきたいところです。
また、インターバル走をしたことのない選手たちであれば最初は半分ほどの距離から始めて少しずつ増やしていき、最終的には目安くらい走れるようにするのが良いと思います。
具体的なメニューを以下のようにいくつか考案したいと思います。
・コーンを100mの距離に置いた単純なインターバル走
・シャトルラン(限られた空間であれば20mコーン間を2往復半する)
・ベースランニング・リレー(インターバル走的な要素を入れて少人数で1人5週するなど)
・アメリカンノック(100mほど走ってキャッチする)
・外周ラン(10秒ダッシュ→1分30秒歩くを繰り返す、レストは状況によって増減させる)
*時間の意識として、攻守交代にかかる時間内(約1分〜2分を想定)で心拍数を整えることができるように休憩(レスト)の時間を設定する。
*もちろん、ポジション別に走る距離や強度に傾斜をつけることもする。内野手であれば距離を短くしたり、投手であれば長くしたりする。
